討論型世論調査(DP)って、何だ?  日本の民主制2.0の一つになるかな

「エネルギー・環境の選択肢に関する国民的議論の進め方について」が7月13日に発表されていたらしい。
これは、2030年時点の原発の発電比率を「0%」「15%」「20〜25%」の3シナリオから選ぶときに、国民の議論を踏まえて決める、その進め方を示したもの。
   http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120705/20120705.pdf

■いろいろ報道もされている。例えばYahooは、、
”政府が初の「討論型世論調査」を実施 8月にエネルギー基本政策で”
   http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120712-00000597-san-soci

政府のエネルギー・環境会議は12日、エネルギーの基本政策に国民の意見を反映するため、300人規模の国民が一堂に会して議論する「討論型世論調査」(DP)を8月4〜5日に都内で開催すると発表した。政府がDPを実施するのは初めて。政府はDPの結果を踏まえ、8月中に「革新的エネルギー・環境戦略」を策定する。

 DPではまず、政府が提示した2030(平成42)年時点の電源構成の3つの選択肢「原発比率0%」「同15%」「同20〜25%」について、全国の20歳以上の男女3千人に電話で世論調査を実施する。

 その後、回答者から無作為に選んだ200〜300人が集合。2日間にわたり、15人ごとのグループに分かれて討論する「小グループ討論」と、専門家相手に質疑応答をする「全体会議」を2回ずつ行う。初日の討論開始前と2日目の討論終了後に参加者へのアンケートを行い、意識の変化を調べる。結果は早期に公表する。

 今回のDPは政府主催だが、中立性を保つため、大学教授らで作る実行委員会が運営する。委員長を務める曽根泰教慶応大大学院教授は「実際の政策決定過程にDPが採用されることは世界でもまれ。効果に期待している」と話している。

エネルギー基本政策に国民の意見を反映させる方法として、「意見聴取会」、「パブリック・コメント」とともに、「討論型世論調査」(DP)が行われるらしい。

■あら、NHKでも番組があったようだ。
激論! ニッポンのエネルギー
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/0714_2/

ニッポンのエネルギーをどう確保していくのか、いま私たちにその選択が迫られている。
原発事故を受け、見直されることになった「エネルギー基本計画」。2030年のエネルギーの割合をどうするか、9か月に及ぶ有識者の議論を踏まえ、3つの選択肢が示された。(1)原子力「0パーセント」再生可能エネルギー「35パーセント」、(2)原子力「15パーセント」再生可能エネルギー「30パーセント」、(3)原子力「20〜25パーセント」再生可能エネルギー「25〜30パーセント」、という3つである。これを踏まえ、国はこの夏、国民的議論を行うとしている。

原発という選択肢を完全に捨ててよいのか?再生可能エネルギーがどこまで広がるのか?コスト増にどこまで耐えられるのか?など、専門家の間でも意見は大きく割れている。こうした問題を私たちはどうとらえ、将来のエネルギーを選んでいけばよいか、徹底討論を通して考えていく。

スタジオには、「エネルギー基本計画」を取りまとめる責任者の古川国家戦略担当相、3つの選択肢を提示した3人の専門家、そして経済界や消費者など様々な視点からのゲストにも参加してもらい、問題の本質を分かりやすく伝える。

うむ。見ていない。
先のニュースにある「討論型世論調査」(DP)と関連しているのだろうか?
ご存知なら教えて欲しい。

しかし、討論型世論調査(DP)って、何だ?    少しまとめてみたい。

討論型世論調査(DP)とは?

東京新聞では、これを社説として取りあげていた。

【社説】討論型世論調査 民意が軽視されぬよう
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012070202000118.html
で、討論型世論調査(DP)の捉え方は、、、

・・・大衆迎合に陥りやすい民主主義の弱点を補う手法が討論型世論調査(DP)だ。
 例えば、三千人を対象に通常の世論調査を実施し、回答者の中から討論に参加する三百人程度の希望者を募る。関連資料を読み込んでもらって二度目、グループ討議や全体会議を通じて専門家から賛否双方の意見を平等に聞いた上で三度目の調査をする。
 その結果、態度や意見の変化が表れる。それこそが熟議を経た深い民意なのだ。・・・(略)

 日本では神奈川県藤沢市が新総合計画策定にあたり、慶応大DP研究センターの協力を得て取り入れたのが最初。同センターは昨年五月、年金をテーマに全国規模で実施した。基礎年金の全額税方式について「賛成」の回答が順次増え、保険料方式の維持が難しいとの認識が深まった。・・・略

うむ。大衆迎合の危険がある民主主義を補完する手法だと。討議により参加者の意見の変化が見られ、「熟議を経た深い民意」を得る可能性があるらしい。

■わかりやすい説明が、原発でのDPをコーディネートしている慶応大学にあった。
討論型世論調査の意義と概要」
http://keiodp.sfc.keio.ac.jp/?page_id=22

討論型世論調査(deliberative poll: DP)とは、通常の世論調査とは異なり、1回限りの表面的な意見を調べる世論調査だけではなく、討論のための資料や専門家から十分な情報提供を受け、小グループと全体会議でじっくりと討論した後に、再度、調査を行って意見や態度の変化を見るという社会実験です。

スタンフォード大学のフィシュキン(James S. Fishkin)教授とテキサス大学ラスキン(Robert C. Luskin)准教授が考案したもので、1994年に英国で最初の実験が行われました。すでに15年以上の歴史をもち、15以上の国・地域で、40回以上行われています。

DPは、その名のとおり、世論調査+討議、であると。
調査対象を国民の属性を考慮することで「代表制」を担保する世論調査と合わせ、「討議性」による熟慮を組合せたもので、いろいろ実証的な取組が世界で行われているようだ。

■学術的にも、「合意形成のための制度としての討論型世論調査の意義」は議論されている。
http://gakkai.sfc.keio.ac.jp/journal_pdf/SFCJ4-04.pdf

合意形成は・・・高度に複雑化・専門化し、国民の選好が多様化した現代社会においては、重要かつ論争的な公共政策の決定は、予断や偏見を排除したうえで、十分な情報を与えられ、問題の本質を理解し、他の考えられる選択肢を考慮し、内心における熟慮と他者との間の討議とを通じて創成される選好に基づくべきであろう。・・・(略)・・・

注目されるのが、代表性と討議性とがともに正の象限に位置づけられる討論型世論調査である・・・略


 資料:討論型世論調査の意義と社会的合意形成機能

討議性が高く、代表制が高い民主的な方法論は、議会+選挙、タウンミーティングとともに、この討論型世論調査(DP)があると。
日本では、地方自治体における議会+選挙のトホホ状態とか、原発でもあったタウンミーティングも、”やらせ” の方が話題になるくらいだから、期待される方法論として捉えられているようだ。

日本の民主制2.0に向けて

討論型世論調査(DP)は、政策の合意形成に向けて注目されているようだが、まあ、現在は

・一般的な世論調査が、よく考えずに回答することも可能であり、人の意見を聞いたり,事前に学習したりしないのが普通であることの補完

討論型世論調査(DP)を行った結果、討議前と討議後とで、被験者の意見の変化が顕著に表れていることのおもしろさ(というか、熟議による考えの変化)

が、目新しいということなのだろう。

その政策の合意形成でも、先の学術論文は、
討論型世論調査における討議後の被験者の意見分布は、知識の習得と討議という過程を経て匡正されているので、決して一般的な国民の意見を代表するものではない。その意味では、純然たる世論調査とは明確に区別して考えなければならないものである。”
という指摘がある。代表制の担保に課題があるようだ。

討論型世論調査(DP)は、民主制2.0の一つの可能性
そうは言いながらも、DPはやっぱし魅力的だ。なぜなら、今までの政策づくりは、「専門性の高さ」と「関心の高さ」を併せ持った人たちが決めていて、それが限界に近づいているからだ。
従来の手法としては、専門家による「審議会」での答申とか、専門家や当事者の話を聞くことが中心の「公聴会」とか、関心が高い連中がコメントする「パブリック・コメントパブコメ)」が中心になる。

役所が人選したメンバーによる審議会が開かれ、その中で公聴会も行われ、答申がまとまるとパブコメにかけられ、そのプロセスを経て政策が決定されていく。
民主的とは言えるが、そのプロセスには専門性と関心の高さを持つ人たちしかアクセスしない。かつ ”役所の手のひら” というもっとレベルが低い話もある。

それに比べ、討論型世論調査(DP)が問うのは、「代表制」と「討議性」の高さであり、関心や専門性ではない。
関心の高い連中だけではなく、国民の代表制を担保していること。専門性の高い連中だけが決めるのではなく、素人が討議・議論して決めていくプロセスを大事にすること。
これは、日本での新たな民主制(民主2.0)の可能性を持っているかもしれない。

特に原発事故では、原子力ムラの専門家のいい加減さを散々見ているし、タウンミーティングが、「関心の高い」電力会社の連中に支配され、やらせで「民意」がつくられるデタラメが暴露された。
このいい加減さを見ていると、DPは結構魅力がある。ただ、先にも書いたように、今のDPは代表制という面で弱点を持っているようだし、政府・役人からの独立性がないと、また役人の ”手のひら” というレベルに堕すリスクもある。

民主制とは、当たり前ながら、主権者(はい、国民です)が、その構成員の合意により意思決定し、実行していくものだ。
方法論はいろいろあるだろうし、合意も別に熟議で決めなくちゃいけない訳でもない。東浩紀さんは、「一般意志2.0」で、意志決定プロセスに、主権者の参画による熟議とは違う方法論として、主権者集団の「集合的無意識」を反映したら、という面白いアイデアを出した。
(まあ、この議論は他の機会に、、)

「代表制を持つ素人の熟議結果を政策に反映するという仕組み」、現実的には討論型世論調査(DP)で、「討議前と討議後とで、被験者の意見の変化が顕著に表れている」ことをテレビとかでマンマ流し、それによって多数(代表制を担保する)の合意が形成されるような方法とかが考えられる。
結構 いいね! と思う。

見れなかったが、先のNHKの番組は、この先駆けになるものだったのかな?
エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査の ”討論フォーラム” は、8月4、5日らしいが、メディアが入って、公開されるのだろうか? 

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル