マイナンバー制度のトホホ

マイナンバー制度法案が実現?
国民全員に個別の番号を割り振り(共通番号制度)、納税と社会保障の情報を一元管理する「マイナンバー制度」が、実現する見込みが高い。政府提出法案について民主、自民、公明の3党が一部修正することで大筋合意し、今国会で成立する公算が大きいようだ。

この制度は、政府が国民一人一人に番号(マイナンバー)を設定し、年金、医療、介護保険、労働保険、納税実績、あと災害時の管理など従来は別々に管理している情報を一元的に集約する仕組み。
   制度概要は、こちら http://www.cas.go.jp/jp/houan/120214number/gaiyou.pdf

政府は、情報を一元管理することで、個人の所得や社会保障の状況を正確に把握できるとし、「公正な納税や効率的できめ細かい社会保障を実現できる」とメリットを指摘する。
導入決定のタイミングは、現在で審議中の消費税増税法案が、共通番号制度を前提としているため、例の「待った無し」のバタバタ。確かに、低所得者向けに減税と現金給付を組み合わせる「給付つき税額控除」では、所得を正確に把握して不正受給を防ぐためにも、マイナンバーのような制度は不可欠ではある。

今までも、税の捕捉率は、給与所得者は約9割、自営業者は約6割、農業、林業水産業従事者は約4割のクロヨンと呼ばれ、自営業者らの所得捕捉が十分ではなく、源泉徴収の会社員との不公平感が根強かった。マイナンバー制度で所得把握の精度が向上し、課税逃れ防止をすること自体には、意義がある。

ただ、この「マイナンバー制度」は、トホホと言わざるを得ない。

■トホホなマイナンバー制度、その理由
第一に、wikiにあるが、従来からの縦割り行政の非効率さを増大させそうなこと。

日本では、現在、基礎年金番号、健康保険被保険者番号、パスポートの番号、納税者番号、運転免許証番号、住民基本台帳カードなど各行政機関が個別に番号をつけているため、国民の個人情報管理に関して縦割り行政で重複投資になっている。あらゆる行政サービスを包括する身分証明書は現在のところ存在せず、これは先進国ではかなり珍しい。

   http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E6%B0%91%E7%B7%8F%E8%83%8C%E7%95%AA%E5%8F%B7%E5%88%B6

このような状況に、マイナンバー制度も追加される。
10年ほど前、今回のマイナンバーと同じように大騒ぎして導入された住基ネット、そのユーザが持つ住基カードは、2012年3月31日時点の累計交付枚数は655万枚と国民の5%ちょっと。今までの住民票発行などの運用と住基カード運用のダブルで行政サービスを非効率にしているのが実態である。

国が国民を管理するのはある種当たり前だが、縦割り行政で非効率、かつ穴が多いというトホホがまずある。役所ごとに国民を管理する番号(ナンバー)が乱立すると。
上のwikiにある ”あらゆる行政サービスを包括する身分証明書は現在のところ存在せず” は、その通りであり、マイナンバーは上記のように社会保障と税に関するものだから、原則、これを目指していない。

だが、第二のトホホは、これに関連する。
現在検討されている「マイナンバー制度」を批判的に見る、元Googleの村上さんの良記事がある。
     肥大化するマイナンバー制度、不要な機能を盛り込む“愚策”
     http://www.nikkei.com/article/DGXBZO44310780Q2A730C1000000/

この記事の中で、彼は、 ”本人確認は3つの要素(1)身元確認、(2)当人確認、(3)(納税などの)真正性確保/属性情報取得があり、それぞれ、「運転免許証のような身元証明書(身分証明書)」、「ID/パスワード」、「社会保障番号のような番号」でうまく運用している米国のケースを挙げている。
これに比べ、日本のマイナンバーは、本人確認の3要素をぐちゃぐちゃに捉え、かつすごく金がかかるシステム設計により、”あらゆる行政サービスを包括する身分証明書”のような機能をマイナンバーカードに盛り込もうとする動きがあることを問題視している。

つまり、納税と社会保障の情報を一元管理する目的の制度に悪乗りして、何でも行政サービスが受けられる「国民共通番号」制度を盛り込み、無駄で非効率なシステムが導入されようとしていると。

これが、第三のトホホに関連する。
何故、このような「納税と社会保障の情報を一元管理する」制度と、ICTシステム設計・開発がちぐはぐになるのか?
今回のマイナンバー制度は、内閣府(および関連官庁)が主導しているが、そもそも国の奥の院にいる連中が地方自治体が窓口になる税や社会保障の業務を理解していないという実態がある。ましてや縦割り行政の弊害を打破する新たな設計をする高邁な思想もなく、ICTも含めた制度設計ができていない。

そこに、ICTゼネコンと呼ばれる企業が、ワアーッと集まり、食い物にすると。「せっかくマイナンバー入れるなら、税や社会保障だけでなく、国民の身分証として、すべてのサービスの基盤にしましょう」と。

マイナンバー制度の開発と運用に対して、新聞赤旗は、開発だけで6100億円と報道(これは2010年の国家戦略室の見積数字であるが、)し、総務省は「2500億円プラスマイナス1000億円程度」を見込んでいるという。
   マイナンバー番号制度のシステム費用はおいくら?
   http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20120411/390663/?ST=govtech&P=2

国民全員にICカードを配布し、身分証明書としても使えるとかすると、総務省の費用見積もりを超えることが予想される。

まあ、縦割り行政の非効率は温存し、新たな縦割りシステムをつくるのに、共通基盤の横串を差すような悪乗りが起こり、コスト高を招くが機能しない(使われない)可能性があるという制度設計のちぐはぐさ。
これがマイナンバー制度の真の問題と感じる。

マイナンバー制度の真の問題
マイナンバー制度に対しては、弁護士団体の自由法曹団など4団体が、プライバシー侵害の恐れなどから反対を表明している。国民に固有のマイナンバーを割り当てることに対して、国の過剰な管理や権力行使を危惧するナイーブな反対もあるようだ。
プライバシー侵害の対策のために、過度にセキュリティを高め、使いにくいシステムになってしまうことを問題視する意見も多い。

ただ、真の問題は、上に書いたような、そもそもの制度設計にあるし、それが無駄なシステム(コスト高、使われない可能性)を生む構造にある。その背景には、やはり消費税増税タイミングに間に合わせようとするドタバタがあるのだろう。

この件だけを考えるなら、無駄にシステム費用が高くなるだけで、まあトホホ。
ただ、住基カードが失敗し、今回のマイナンバー制度となり、今後の行政制度設計もちぐはぐさが続くようだと、、、まじヤバいなあ。