「日本再生戦略」   今後チェックすべきは1つだけ

政府の「国家戦略会議」で策定された野田政権の経済成長戦略である「日本再生戦略」が、7月31日に閣議決定された。
    http://www.npu.go.jp/policy/pdf/20120731/20120731.pdf

日本再生戦略で、チェックすべき観点は1つだけと思う。

ロイターのニュース配信が、うまくまとめていた。
「政府が「日本再生戦略」まとめる、環境など3分野に重点投資」

・・・2020年までの成長戦略を描いた「日本再生戦略」をまとめた。基本方針に、被災地の復興などと並び「あらゆる政策手段を使って円高とデフレの悪循環を防ぐ」と明記、円高・デフレ対策に取り組む姿勢を強調した。
次世代自動車などの環境、医療、農林漁業の3つの重点分野への予算配分を徹底し、特別会計を組み替える方針も掲げた。
  (中略)
日本再生戦略は基本方針として、1)被災地復興とエネルギーの構造転換、2)次世代自動車や蓄電池などの「グリーン」、次世代医療などの「ライフ」、「農林漁業」などの重点分野に今後3年間、財源を優先配分し、中小企業の活力向上を含む4大プロジェクトを実施、3)デフレ脱却と円高への対応、4)政策中心・省庁横割りの予算編成、5)政策の厳しい進捗管理──を掲げた。民主党が掲げる名目経済成長率3%、実質2%を目指すには「長年のデフレから早期に脱却するとともに、急速な円高進行への対応が必要不可欠」だと指摘し、日銀との緊密な連携の下で「デフレ克服に全力で取り組む」とした。
  (中略)
また、11の成長戦略と38の重点施策を明示。環境関連や医療、介護などの分野で新市場を創設するほか、成長マネーの供給拡大に向けた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの公的マネー改革や、円高対応緊急ファシリティのさらなる有効利用促進も盛り込んだ。環境関連で50兆円以上の新規市場と140万人以上の新規雇用を、医療介護分野で約50兆円、284万人の雇用を創出する、などとしている。
  (中略)
野田佳彦首相は日本再生戦略の実行に向け、「日本が再び力強く成長できるよう、政府として施策を総動員していく」とし、震災からの復興と福島の再生を最優先としつつ、政策ごとにメリハリをつけた予算編成をしていく考えを示した。

日本の経済成長戦略として、環境、医療、農林漁業の3つの重点分野への予算配分を徹底。11の成長戦略と38の重点施策を明示し、100兆円超の新市場を創出し、480万人以上の新たな雇用を生み出すと。

■成長戦略は重要だが、、
経済成長戦略は大切である。
一部で、「日本は既に高度に経済成長しているのだから、これ以上成長は必要ない」という意見があるが、おかしいと思う。特に、一部の脱原発派が、「経済成長よりも命」とかいうが、そもそも命を支える経済と命を比べるのは、僕も脱原発の支持者だが、明らかにおかしい。
経済成長、日本のように人口減少が顕在化している場合は、一人当たりGDPの向上と定義したいが、は人間を幸福にするからだ。当然、経済的な豊かさ価値だけが、人間の幸福を決めるわけではないのは確か。
   ちなみに、日本の一人当たりGDPは、近年は20-25位くらいを行ったり来たり。日本男子サッカーのFIFAランクと同じくらい。
   つまり、まだまだ伸びしろはあるということ。

経済価値は、様々な価値がある中で、個々の人の経済の豊かさが上がれば、今より不幸になることは無く、万民が納得する世の中全体が良くなる数少ない価値の一つである。このようなパレート改善(全員の効用を高める改善策)として経済価値は重要と思う。
当然、パレート改善を指向する経済成長戦略を否定する理屈は無い。

この辺は、飯田泰之さんのこの本がおすすめ。

ただ、そのやり方は、様々だ。
通常、成長戦略と聞くと、大抵の人が「お上が成長産業を選別し、そこへ集中投資する」ことを思い浮かべるだろう。今回の日本再生戦略も、環境、医療、農林漁業の3つの重点分野、11の成長戦略と38の重点施策が掲げられている。

そんなことはない。
経済成長のためには、労働の拡大、資本や生産など設備の拡大、技術や規制緩和等を活かした生産性の拡大がある。人口は減少しているが、海外から高度な移民を増やして労働力を増やしたり、日本企業が投資しないのなら、海外から投資を呼び込んだり、ICTなど活かして生産性を高めるなど、いろいろある。
成長戦略=(お上がつくる)重点産業政策の考え自体、極めて狭いものの見方だし、今回の日本再生戦略も今のままならトホホとしか言いようがない。

今回の日本再生戦略も「重点分野への予算配分を徹底し、特別会計を組み替える」など、予算の分捕り合戦が始まるというファンファーレが鳴った意味しかない。
戦略とも言えないかもしれない。「11の成長戦略と38の重点施策」って、明らかに数が多すぎる。各官庁が挙げてきた施策を、国家戦略会議が束ねてホチキス止めしたということで、集中と選択という戦略設定も弱い。


■日本再生戦略の予算化などチェックは1つだけ
野田佳彦首相は日本再生戦略の実行に向け、「日本が再び力強く成長できるよう、政府として施策を総動員していく」”らしいから、消費税増税を見越した来年度バラマキ予算が早々と検討されるだろう。民主党も、予算の枠組を決めてから解散選挙と言っているようだし。

1つだけ注目したいのは、3つの重点分野である環境、医療、農林漁業は、すべて規制が強い分野だということだ。規制を緩和する政策で、労働力と資本を効率的に組み合わせると、成長の伸びしろは大きい。
例えば、環境分野のスマートグリッド分野のように、電力事業の規制緩和(例えば発送電の分離)政策とICTを組合せると新たなサービス市場を創造することにつながる。医療分野の全面的な規制緩和は問題が大きいが、例えばインターネットを使った薬の売買やオンライン医療・健康アドバイスなどは、新たな価値を生み出す可能性がある。農林漁業も、大規模資本を呼び込む規制緩和で、野菜工場が拡大すれば、おいしい日本の農産品が海外でバカ売れ、というのも夢ではない。

冴えた規制緩和の制度設計と資本を組合せると、確かに魅力的な3分野である。(と言うか、今までがあまりにも既得権益強すぎだから)

逆に、今の制度のままとか、中途半端な規制緩和では、単に環境分野の畜電池工場や野菜工場、農業のための防災設備などの箱モノを補助金で作って、実ビジネスはトホホでした・・・みたいなことになりかねない。こんなことでは、100兆円超の新市場を創出し、480万人以上の新たな雇用を生み出すなど絵に描いた餅以外の何物でもない。

3つの重点分野である環境、医療、農林漁業の規制緩和の制度設計。今後、チェックすべきは、この1点のみ。
例えば、環境・エネルギー分野では、実効的な発送電分離を実現し、当然強い既存電力会社への規制と新規参入インセンティブ(まあ、太陽光の42円フィードインタリフはやりすぎだが、地熱発電インセンティブの拡大とか)とかね。

民主党じゃない政権政党のもとでの規制緩和の制度設計を、今後も注目すべきと思う。