イケイケ太陽光発電にあるサンデル先生流の正義・公共問題

7月に入って、太陽光、風力など再生可能エネルギーの普及を促す「固定価格買い取り制度」が始まった。太陽光事業など新たなビジネスを立ち上げるためのインセンティブ制度が開始されることになる。

メガソーラー、各地で始動 熊本・長崎でも計画  −買い取りスタート
http://www.nikkei.com/article/DGXNSSXKA0091_R00C12A7000000/

太陽光、風力など再生可能エネルギーの普及を促す「固定価格買い取り制度」が1日始まった。ソフトバンクの子会社は、京都市群馬県榛東村で大規模太陽光発電所(メガソーラー)の運転を1日に開始。新潟県、福岡県などでも自治体などによる施設が稼働を始め、再生エネルギーを積極的に活用する動きが各地で本格化している。
ソフトバンク孫正義社長は1日、京都市で記者会見し、熊本県長崎市にメガソーラーを建設する計画を公表した。島根県では風力発電所を建設する予定で、同社が現時点で公表した発電所は全国で計11カ所になる。
孫社長は「公約したことは必ず守る。ぜひやってほしいという土地があれば、さらに増やしたい」と意欲を示した。


ソフトバンクの孫さんや京セラの稲盛さんのうれしそうな顔が印象的

メガソーラーなど太陽光、再生可能エネルギーと「固定価格買い取り制度」

太陽光、風力など再生可能エネルギーは、原発がすったもんだしている中、クリーンな電力源として注目されている。

先日書いた、今後のエネルギー・環境政策におけるエネルギー選択の3シナリオのすべてで、再生可能エネルギーは今後も急速に伸ばす方針だ。

2012年 原発・エネルギーをめぐる熱い夏 今後の日本の行方を決める一つの試金石かな(SNSにとってもね)

http://d.hatena.ne.jp/morissk/20120630/1341061896

そのため、再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電が注目され、イケイケモードになっている。

太陽光発電は、家やビル、工場などの屋根に取り付けて、省エネの促進や余剰電力を電力会社に販売するタイプ(ルーフトップ)と、記事にあるような比較的大規模な太陽光発電所(メガソーラー)を設置し、電力会社に全量買い取ってもらうタイプが中心。「固定価格買い取り制度」では、42円/キロワット時で20年間買い取る価格が決定したため、数年前から伸び始めたルーフトップ型とともに、メガソーラーが今年から急速に伸びると予測されている。

伸びる理由は簡単で、儲かりそうだから。
現在、1キロワットを発電するメガソーラーの太陽光パネル・機器の相場は、やや安めのメーカだと30万円程度。これに日本の平均的な日照時間の1000時間/年に42円/キロワット時の買取価格をかけると1年で4万2000円の売り上げ。そうすると、30万円/キロワット÷4.2万円(キロワット/年)で、7年ちょっとで損益分岐点を超える。
これに輪をかけて、国がこの価格を20年間保証するのだから、7年ちょっとで投資を回収し、その後13年弱は利益でウハウハになるという算数問題。

まあ、これはあまりにも単純で、本当は、コストに土地の手当て、各種保険、資金調達コスト、メンテナンス、送電線までのケーブル設置コストなどがオンされるから、もう少し損益分岐点超えは遅まる。ただ、この辺をうまくやれば、8〜10年でコスト回収ができ、あとは利益が出るビジネスである(メガソーラーのように設備だけあって人件費がほとんどかからないビジネスはいいね)。
やはり「おいしいビジネス」だ。

課題はある。まあ20年で儲けまくるのはいいが、その後の太陽光パネル撤去をどうするのか、とか。ただ、これは今回の議論では置いておく。(原発の廃棄核燃料と同じじゃないかとか突っ込まないと。それに比べれば問題は相当ちっちゃい)

議論の中心は、「固定価格買い取り制度」。
今年度は、42円/キロワット時で20年間買い取る、つまりメガソーラー事業者や、家の屋根に取り付ける人たちの売電売上分を20年間支払うということが既に決まった。その買取コスト(事業者などの売上)は、一般の家庭やオフィス(業務用)などの電力需要家が電力利用量に応じて均等に負担すると。
あれれ、孫さんのようなメガソーラー事業者やルーフトップつける人って金持ちだろうに、そこに補助が入って、一般の家庭人が、その補助を補てんするために電気料金が上がると。

さらに、日本政府の方針では、今後3年間はメガソーラーなどの事業の採算を考慮して、「固定価格買い取り制度」の価格を決めると。つまり、来年の7月以降の買取価格は42円よりも安くはなるが、事業が成り立つような価格にするし、再来年もそうよということだ。来年以降の買取価格は現段階で決まっていないが、法律では半年ごとに見直すことになっている。

これをグローバルに見るとどうか?
太陽光など再生可能エネルギーの促進において、「固定価格買い取り制度(正確に言えばフィード・イン・タリフ)」は、多くの国に採用されている制度だから、日本も採用したのは単純にうなづける。
42円/キロワット時で20年間買い取るというのは、先行していた欧州に比べても高い。新たな太陽光ビジネスを展開する事業者へのインセンティブとしては非常に大きいと言える。
その欧州のスペインなどでは、「固定価格買い取り制度」で太陽光の設置が急速に拡大しすぎて、次の年の買取価格を大幅に下げたものだから、太陽光パネル需要が上がったり、下がったりで大混乱になったのは記憶に新しい。日本は、少なくとも3年間は、買取価格の大きな振れは無しにする制度設計。

うん、、孫さんの笑顔もよくわかる。

サンデル先生風の正義・公共問題

では、ここでマイケル・サンデル先生風の問題。

ある金持ちのソーラー事業者が、「固定価格買い取り制度」を利用して事業を始めるとする。その事業は、期待されるニュービジネスで、不況にあえぐ「日本再生」の突破口になるという。
ただ、そのビジネスは、事業者にとって極めて有利な補助制度(固定価格買い取り制度)で、その補助の負担は、近年生活の苦しさが増大している一般家庭が行う。電気料金が年間で1万円近く上がり、今後も値上げが予想されることから困窮の度合いが高まると懸念されている。

さて、この事業は、正義または公共の観点からどう考えたらよいだろうか?

いかがですか?

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議論としては、「補助を含む事業自体」の正義という観点と、「固定価格買い取り制度」の詳細な制度設計(例えば、一般の人が負担する金額に応じた買取価格の設定をどうするか?)の正義・公平という観点があるように思う。

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僕としては、事業自体の正当性はあるが、詳細な制度設計を社会公平の観点から行うべきという意見かな。
だって、「固定価格買い取り制度」のような補助がないと、残念ながらメガソーラーなどの事業は立ち上がらない。原発を減らした方が良いと思っていることも含め、事業や補助の枠組み自体は正当性があると思う。

ただ、42円とかの制度設計レベルは、少し高すぎじゃない?(一般家庭の負担が大きくなるリスクあるんじゃない?)とは思う。
日本政府としても、半年ごとに買取価格などを含む制度の見直しは法制度化している。この辺は、今後の世論が大きなパワーになるのではないかと考えている。