オスプレイ問題って、結局のところコミュニケーション問題では  

日米両政府が米海兵隊の新型輸送機オスプレイの沖縄配備を決め、経由地の岩国基地に陸揚げされており、大きなニュースになっている。オスプレイに関して、いろいろな問題が指摘されているが、本当のところ何が問題なのかわかりにくい。
結局のところ、日本政府のコミュニケーションのいまいちさかな、という気もするが、簡単にメモ。

■安全性問題
オスプレイでは、まずは安全性が問題とされる。「ウィドウメーカー」(未亡人製造器)のニックネームもあるようだ。
ただ、10万飛行時間あたりの事故発生件数をみると、オスプレイが代替する予定の古いCH46ヘリよりも高いが、2004年に沖縄国際大学に墜落したCH-53Dシースタリオンも低いようだ。最も、CH46は、老朽化のため2010年は3万時間しか飛んでいないようだが。

機種             事故率
MV-22B オスプレイⅡ    1.93
CH-46 シーナイト     1.11
CH-53D シースタリオン     4.51
海兵隊全体         2.45
資料:沖縄タイムズ

今年になって2回事故が続いたことが不安の種になっているが、アメリカの報道では、
◯モロッコ事故は経験の浅い操縦士が機体の速度が遅いまま転換飛行を試みる操縦マニュアル違反を犯し、失速
◯フロリダの事故は前方の僚機との距離が近過ぎた事で僚機の出す乱流に巻き込まれた可能性があり、操縦マニュアル(ヘリコプター形態では250フィート離れる)に違反していた可能性。
とのこと。 (ソース http://obiekt.seesaa.net/article/280173146.html
垂直離着陸機が故の不安定さはあるものの、オスプレイ独自の構造問題ではないと。

技術に100%安全は無いのだから、オスプレイがCH46に比べ飛行速度が2倍、航続距離が8倍、往復できる距離なら4倍という高性能を考慮すると、悪くないかもしれない。
政府から国民に対するオスプレイの安全性と性能に対する説明・コミュニケーションが不足していると感じる。

     オスプレイ(MV-22)とCH46の性能比較
          MV22オスプレイ   CH46シーナイト
最大速力    509 km/h        265 km/h
航続距離    3334 km        426 km
作戦行動半径     600 km        150 km
        ソース:http://chinshi.blog102.fc2.com/blog-entry-133.html


■沖縄問題と7ルートの自治体問題
10月から配備が計画される沖縄 普天間は、大きな反対の声が起こっている。
もし、市民を巻き込む事故が起きたら深刻だし、以下のような情況もあるようだ。

オスプレイで野田政権追い込まれる」 国民新・下地幹事長が批判

 「国民新党下地幹郎幹事長(衆院沖縄1区)は24日の記者会見で、米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを10月初旬に沖縄で運用する日米両政府の方針について、『オスプレイを強引に沖縄に搬入すれば、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を推進している人も一挙に辺野古移設反対に変わる。野田政権が追い込まれることは間違いない』と批判した。

             http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120724/plc12072412210012-n1.htm

沖縄の米軍基地問題は大きな問題。民主党としては、鳩山ルーピー元首相がつけた汚点もある。だが、CH46ヘリは「老朽化し使い続ける方が危ない」(森本敏防衛相)という面もあるのだが、うまくコミュニケーションが取れていないと。

オスプレイは、10月初旬からの本格的な運用では、本州、四国、九州など7つのル
全国知事会は19日、オスプレイが危険であるとして「自治体や住民が懸念する安全性の確認ができていない現状では受け入れることができない」と反対の緊急決議を採択するなど、飛行ルート下の自治体で反発が強まっている。ートを設定し、低空飛行訓練を行うことにしている。

         http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120723/plc12072321380028-n2.htm

自治体と政府間の話し合いも不十分のようだ。


■安保問題、主権問題
野田首相は、16日のフジテレビ番組では「配備自体は米政府の方針だ。どうしろ、こうしろという話ではない」と述べ、米側の判断を重視する姿勢を示したらしい。
岡田副総理は、7月1日に山口県周南市で記者団に対し以下のコメントをしたという。
「日本政府としては、オスプレイの安全性について、『きちんと説明してほしい』とアメリカ政府に申し上げている。ただ、配備することについて、『今しばらくストップしろ』とか、『ダメだ』と言う権限は日本にはなく、そういうなかでギリギリのことをやっていると理解してほしい」。

これは、日米安保条約 6条の話

日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリ力合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定(改正を含む)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。

前半にあるように、アメリカに使用許可があるのだからいきなりダメと言えないのは確か。だが、後半にある「別個の協定」とは、日米地協定で、そこの25条が話題になる。

この協定の実施に関して相互間の協議を必要とするすべての事項に関する日本国政府と合衆国政府との間の協議機関として、合同委員会を設置する。合同委員会は、特に、合衆国が相互協力及び安全保障条約の目的の遂行に当たつて使用するため必要とされる日本国内の施設及び区域を決定する協議機関として、任務を行なう。

合同委員会を設置して協議できると。で、それを行うらしい。

玄葉外相は24日午前の閣議後の記者会見で、米軍の新型輸送機MV22オスプレイの運用について協議する日米合同委員会を26日に開催すると発表した。
 外務省で開かれる予定。山口県岩国市の米軍岩国基地への搬入に対し、地元や配備先の米軍普天間飛行場を抱える沖縄県が反発しており、政府は同委員会で安全性への懸念を払拭する具体的な運用方法をまとめたい考えだ。
 玄葉氏は「運用ルールは安全性の問題を考える上で大事な点だ。(結論は)出来るだけ早い方が望ましい」と強調した。同委員会は10月に予定されるオスプレイの本格運用までに数回開かれる見通しで、日本側は住宅地上空の飛行回避などを求めていく考えだ。

日本政府としては、安全性確保のための運用方法の具体化に注力するようだ。


尖閣問題への対応問題

玄葉光一郎外相は25日の記者会見で、米軍の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ配備について、中国の海洋進出に言及し「日本自身の安全保障上の要請だ」と述べた。中国海軍への抑止力として期待できるとの認識を示唆した発言だ。
 中略 
 その上でオスプレイ配備について「装備品の更新や性能向上は抑止力向上に資する。米国の要請だからということではない」と強調した。

   産経web  http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120725/plc12072516230018-n1.htm

オスプレイは、日本自身の安全保障上の要請で、米国の要請だからということではないと。
中国の海外進出、とりわけ尖閣に関して抑止力として期待するようだが、抑止力になるのかな。仮に中国が何らかの形で尖閣に上陸した時、オスプレイ出動するのだろうか?

先に書いたように、オスプレイは最大速力 509 km/h、航続距離 3334 km、作戦行動半径 600 kmだから、尖閣や上海なども入る。

中国紙・環球時報は24日、米新型輸送機MV22オスプレイ12機が23日に米軍岩国基地に到着したことを受け、同機の導入は、日米が尖閣諸島を含む「南西方面でも軍事的均衡力の増強」が念頭にあるとして、警戒を示す記事を発表した。オスプレイが沖縄に配備されれば、上海も行動半径内に入ると指摘した。中国新聞社などの中国メディアも同記事を紹介した。      

  サーチナ http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0724&f=national_0724_019.shtml

先に挙げた合同員会では、”合衆国が相互協力及び安全保障条約の目的の遂行に当たつて使用するための協議” とあるが、仮に尖閣諸島に中国が上陸した場合、オスプレイは出動するのだろうか?
米国にとって経済面で最も重視せざるを得ない中国との関係づくりを考慮すると、日米安保があるから、尖閣に米国が赴く、というのは現実的には無いと考えるのが自然だろう。航続距離が伸びて尖閣諸島まで1時間で着くというオスプレイを配置しても、実際の出動がないとすれば、可能性としての「抑止力」ということに期待することだけということか?
この辺は、外交上の微妙な話だが、日本側から米国に安全保障に関するコミュニケーションをしているのかどうかわからない。


オスプレイ購入問題

米軍の最新型輸送機「オスプレイ」が、英ファンボローで開催中の国際航空ショーで展示され、同機の開発計画を担当する米海兵隊のグレッグ・マシエロ大佐は、複数の国から購入の引き合いが来ていることを明らかにした。
オスプレイを製造する米ボーイングの関係者は今週に入り、イスラエルアラブ首長国連邦(UAE)、日本が同機の購入に関心を寄せていると記者団に明らかにしていた。また、買い手候補としてはカナダの名前も浮上している。

  ロイター  http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPTYE86A05320120711

日本自体が購入し、自衛隊などに配備される可能性があると。米メディアは、米国が大幅な軍事費削減を迫られている中、軍需産業界が海外に展望を求める傾向が強まっているととの指摘もあり、今後高い買い物をする可能性が高い。


オスプレイ問題でも明らかな政府のコミュニケーションのイマイチさ
結局のところ、安全性に関しても、沖縄や7ルートの自治体問題にしても、安保・尖閣対応をとっても、オスプレイの問題は、政府のコミュニケーション能力の問題だという気がする。
野田さんの「配備自体は米政府の方針だ。どうしろ、こうしろという話ではない」というのは、安保条約上「当たり前」の話だし、その上で、日本としてどうするという話を聞きたいのだが。。。

米国や中国とだけではなく、自治体、沖縄、そして国民とのコミュニケーションが大事なのにね。