脱原発を方向付けたドイツ倫理委員会の実情  倫理委は日本でも出来るかな?     

ドイツが脱原発に舵を切った時に、メルケル首相が最も重視したドイツ倫理委員会の委員ミランダさんに対するインタビュー記事。
非常に参考になるのでスクラップ&メモ。

「国民的議論」をいかに進めていくか 〜ドイツ倫理委員会の実情と脱原発へのプロセス  ミランダ・シュラーズ
         http://synodos.livedoor.biz/archives/1958618.html

倫理委員会の正式名称は、「ドイツ・安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」。
” アンゲラ・メルケル首相の委託により2011年4月4日から5月28日まで設置された委員会、通称「倫理委員会」。委員による非公開の議論と、テレビ中継による公開の議論を経て報告書「ドイツのエネルギー転換―未来のための共同事業」を提出し、ドイツの脱原発を倫理的側面から方向付けた。”

ミランダさんは、こんな人
アメリカ生まれ。メリーランド州立大学教授を経て、ベルリン自由大学教授・環境政策研究センター所長。専門は環境政策政治学


■委員会メンバーはどんな人?

メンバーはメルケル首相が10人選び、残りを委員長のクラウス・テプファーさんが選んだという話を聞いています。環境問題に取り組む人と、企業的な考えを持っている人をバランスよく選出したのだと思います。
テプファーさんは、1987年からドイツ環境大臣を務め、1998年から2006年にかけて国連環境計画(UNEP)の事務局長を務めた人。
   略
原子力の専門家や電力会社関係の人は一人もいません。エネルギーのことをわかっている人、ほとんどわかってない人の両方がいます。印象的なのは、教会のメンバーはカトリックプロテスタントの両側が代表されていることでした。その他には、消費者に詳しい方、倫理やリスク社会専門の教授などが招待されました。与野党の議員も入っていましたが、緑の党はいませんでした。
   略
ドイツも日本と同じくまだまだ男性社会で、倫理委員会のメンバーは女性は2割くらい。

ドイツの倫理委員会にあたる会合組織は、日本には、そもそもない。
ドイツの場合は、首相と、首相が選んだ委員長がメンバーを選んだと。原発の専門家はおらず、エネルギーまで広げてもよく知らない人もいたらしい。政治家、宗教、及び倫理やリスク、消費者の有識者などで構成されたと。


■委員会の議論は?

委員会では意見がまとまらずに議論が進まないときがありましたが、そういうときはテプファーさんが場を仕切り、目標は「脱原発」であるということを繰り返し主張しました。
   略
議論が進まずに、これでは委員会がだめになるんじゃないかというときも何度かありました。対立したメンバーが、部屋をかえて密談や説得をはじめたりしたことも。しかし、倫理委員会全体が統一できていなければ、社会からの信頼や期待を得ることはできません。
   略
倫理委員会を進めていくうえで一番難しかったことは、本当の倫理的な考え方をもつと「原子力発電はすぐに停めたほうがいい」という考えに至ることです。稼働停止を10年先延ばしにしても、リスクはどこかのコミュニティが負担することになるわけですからね。
   略
・・・重視された人はいたか?・・・政治家と研究者の二人がいたのですが、やはり両者の関係が非常に大切でした。  略 、政治の話に加え、将来のためには研究も大切であるということがよく書かれています。
   略
・・・安全委員会との交流について・・・安全委員会のメンバーの一人と話をしたいと思ってコンタクトをとってみたのですが、断られました。やはりお互いに独立する必要あるという考えがあったのでしょう。
安全委員会のレポートが私たちのレポートの数日前に出来上がり、だいたいどういう内容が書かれているかは私たちにもわかっていました。ただ、それは私たちの倫理的な考え方に影響するものでもありませんでしたので、結果としては独立的に働いていたと思います。

目標は脱原発で統一していたが、脱原発にもいろいろあり、対立があったようだ。企業的な人もいたのだから、原発を止めるタイミングなどは大きな問題となっただろう。
技術者中心で、原発は安全管理が可能として原発を容認するレポートを出した安全委員会とは、独立していたようだ。


■委員会には、ゲストが呼ばれて議論した。そのゲストとは?

 ・・・重要なのは、誰を招待するかです。

たとえば、リスク社会論専門のウルリッヒ・ベックさんは、若者や女性をもっと招待するべきだと主張しました。次世代について考えることですから若者の視点が必要です。  略  また、ゲストで呼ばれた人もほとんど男性です。

これは、日本でもよくやる手だが、誰を招待するかがポイントと。


公開討論会は2回TV中継された

1回目はインタビュー形式で11時間ほど、2回目はパネルディスカッション形式で5時間ほど行いました。一番ピークのときで約150万人が見ていたと聞いています。
ドイツではそれなりに関心を持たれているといえます。また放送では視聴者の様子も映し出され「今のインタビューの内容をどう思いましたか?」「足りない議論はありますか?」など、委員会と視聴者の意見交換も行われました。

テレビ番組で公開し、国民に関心を持たれたと。


■日本で倫理委員会って成り立つのか?
ドイツの倫理委員会の運営も、ポイントは人選のようだ。

日本では、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会をはじめ、くそ細かいテーマごとにさまざまな委員会が立ち上がったが、ドイツの倫理委員会のようなものはない。
基本問題委員会は、ドイツの倫理委員会と同様に脱原発を基本に始まったはずだが、徹底することは無く、前に書いたが原発依存度の3シナリオを提出するにとどまった。

   原発依存度0%、15%、20−25%をイメージしてみる  0%シナリオは、それほど過激じゃないなあ
     http://d.hatena.ne.jp/morissk/20120718/1342607329

基本問題委員会の人選は、元経産大臣の鉢呂さんの更迭問題もひょっとしたら絡むような大きな話だったが、結局、官僚主導で決められた。かつ、”倫理” を議論するようなアジェンダではなく、もっぱら経済的な問題が中心議論になってしまった。

しょぼい経済議論が中心で、原発に対する行動規範となり得る倫理の議論は希薄だった。まあ、反原発派の人もいたが、日常的な安全性の話が中心で、それを超える価値や権威に関する議論はなかった。

そして、ドイツの倫理委員会についても、選挙に絡む政治の日常性として語る人が多かった気がする。はなから倫理や超越的な論理、価値というのはない。原発に対する価値観という大きな物語がない。

まあ、無理に捻って倫理自体を捏造してもしょうがないのだが。
繰り返すが日本には、ドイツのような倫理委員会がない。日本で倫理委員会って成り立つのか?

わからない。無理して、捏造するのはまずいと思うが、、、。
ただ、倫理委員会が成り立たない国は、原発を持つことは辛いという気がする。