原発依存度0%、15%、20−25%をイメージしてみる  0%シナリオは、それほど過激じゃないなあ

2030年の原発依存度を決めるための「国民的議論」。パブコメ、意見聴取会、討論型世論調査(DP)が参加スタイルとして用意されている。
DPについては、前に書いた。
   討論型世論調査(DP)って、何だ?  日本の民主制2.0の一つになるかな
   http://d.hatena.ne.jp/morissk/20120716/1342404628

意見聴取会は、各地域で既に開始され、15日の仙台市東北電力幹部が、16日の名古屋市中部電力社員が、将来の原発依存度の3選択肢のうち「20〜25%」を支持する発言をしたことが話題になっている。

それを受け、今日のニュース

古川元久国家戦略担当相は17日、将来のエネルギー政策をめぐる意見聴取会について、電力会社や関連会社の社員による意見表明を認めないことを柱にした「改善策」を発表した。政府は電力会社を締め出すことで、聴取会の運営方法に対する批判をかわしたい意向だ。

 改善策では、事前の抽選で選ぶ発言者から電力社員を除く一方、9人だった発言者の枠を新たに3人増やして12人に増員。”

       朝日新聞デジタル   http://digital.asahi.com/articles/TKY201207170219.html?ref=comkiji_txt_end

お粗末すぎて、なんだかな。 今までのタウンミーティングのような わからないように仕掛けて、結局ばれた”やらせ仕込み”ではないようだが。
まあ、この件は、広告代理店のH堂に丸投げのようだから、例の ”あるある大事典” のように末端調査会社にカネが回らず、かつかつの仕事で人を集めたせいかもしれない。。。
トホホ。

パブコメを意識して、頭の整理のために、原発依存度5%、15%、20−25%の違いを考えてみた。本来は、電力システム改革とかとセットで、発電方式を考慮するのが筋だろうが、すでに3シナリオから選択するアジェンダ・セッティングされているから、それに乗ってみる。


■まず、原発依存度の%表示は、リアルにイメージできず、よくわからない点について、、、
前提として、
・2010年(震災前)の依存度は26%
・2010年時点でのエネルギー基本計画(自民党時に作成、民主党政権も当時は賛同)では、2030年の原発依存度は51%に拡大する方針だった
・今は、大飯原発だけだから、ほんの少し

今回出てきた2030年時点の原発依存度3案のイメージは、
・20−25%で固定するシナリオ
 2030年までに、廃炉40年を前提とすれば新規の原発を新たに設置する、または廃炉40年をうやむやにするのどちらか、または双方。2030年以降も、この状態が続くと。

・2030年で15%、その後も徐々に依存度を下げる
 2030年までに、原発稼働40年ものを廃炉にすることが前提。
 逆に言うと、再稼働した大飯原発をはじめ、すみやかに止まっている原発を動かし、廃炉期限が来るまで、粛々と動かすと。

・0%シナリオ
 下記の「原発ゼロの会」の資料を参考にすると、福島、女川など、今までの震災で毀損した原発と止めた浜岡を即廃炉にして、非常に危険度が高い原発を早期に止めた後は、40年廃炉原則で粛々と止めていけば、 2030年には、ほぼ依存度は0%になる。
 あまり無理をして、原発すぐに全面阻止!!と肩を怒らすような感じでもないと。 


■脱化石燃料・燃料輸入費やCO2削減など複眼的な視点で見ると、
エネルギー・環境会議は、エネルギー構造改革に関する3つの視点を挙げている。
(1)クリーンエネルギーへの重点シフトと成長の確保 (2)エネルギーシステムの改革 (3)多面的なエネルギー・環境の国際貢献
ただ、発送電分離とか、それにより期待が高まるスマートグリッドの導入加速とかの(2)エネルギーシステムの改革についての言及は極めて限定的。

では、依存度0%シナリオを軸に見てみよう。
2030年の電力発電の姿として、、、
再生可能エネルギー比率を現状の10%から35%にアップする。(15%シナリオでは30%にアップ、20-25%シナリオでも25-30%にアップ)
化石燃料の依存度は約 65%と現状と同程度。(15%では55%、20-25%では50%にダウンしてgood)
温室効果ガスの排出量は 1990 年比約 23%減。(15シナリオの約 23%減と同程度、20〜25シナリオの約 25%減と比べると削減幅は小。)
化石燃料の輸入額は現状の17 兆円に比べ約16兆円。(15 シナリオの 16 兆円と同額、20〜25 シナリオの 15 兆円よりも支出は若干増える。)

注意を要するのは、上記は、より踏み込んだ制度改革等により再生可能エネルギー約 35%を目指す場合であること。より踏み込むとは、 ”省エネ性能の劣る製品の販売制限・禁止を含む厳しい規制を広範な分野に課し、経済的負担が重くなってでも省エネルギーや CO2 削減対策を行い、更なる天然ガスシフトを行う” などとしている。

エネルギー・環境会議の試算では、再エネ 35%アップが一部経済負担を招く可能性を指摘しているが、CO2削減効果の低下、化石燃料の輸入額アップなどのネガティブ要因は、15%シナリオと同様と見做している。

再エネ35%のハードルがあるものの、0%シナリオのネガティブ要因は抑えられると。
(1)クリーンエネルギーへの重点シフトと成長の確保、(3)多面的なエネルギー・環境の国際貢献の観点からは、0%シナリオは、15%なみを確保できるようだ。


■エネルギー選択に当たって4つの視点
同じくエネルギー・環境会議は、以下の4つの視点についての検討も提案している。
それは、(1)原子力の安全確保  (2)エネルギー安全保障の強化  (3)地球温暖化問題解決の貢献  (4)コストの抑制と空洞化防止 の4つ。

同会議がデータを出している、(4)コストの抑制と空洞化防止、で0%シナリオを中心に見てみよう。
・発電コスト:15.1円/kWh(+6.5円) 
 15%では14.1円/kWh(+5.5円)、25%では 14.1円/kWh(+5.5円)で、程度の差はあるが、全シナリオで今よりも高くなる。
・系統対策コスト:5.2兆円
 15%では3.4兆円 、25%では3.4〜2.7兆円で、0%シナリオの対策費は高くなる。
・省エネ投資:約100兆円
 15%で約80兆円。 25%でも約80兆円で、投資が一層必要になる。

発電コストは、3シナリオとも今に比べて高くなる。電力系統コストや省エネ投資は、0%シナリオが22兆円程度多くかかると。

(1)原子力の安全確保は、0%が最も有利だし(ただ、0%に落とすまでのリスクはあるし、廃炉後もリスクが0じゃないので、万々歳ということではないが)、
(2)エネルギー安全保障の強化(化石燃料がない日本・・)、(3)地球温暖化問題解決の貢献(CO2削減効果)は、先でみたとおり0%シナリオは分が悪いが、15%と、どっこいどっこいな感じ。


■その他の視点としては、
3シナリオを比較するという意味でのその他の視点としては、以下がある。
(1)今後の原発事故リスク
 活断層の上にわざわざ原発をつくったような日本での今後の事故リスク。特に福一の補償もはっきりしないし、保険制度も無理な状況で、膨大な損害リスクを見積もらないといけないだろう。ドイツのように「事故が起こった場合対処できない」という倫理的な判断もある。
当然、0%シナリオに有利に働く。

(2)原発立地地域の雇用・仕事など地域経済問題
 原子力ムラは役所、大学、メーカ、電力だけじゃなく、地域にも存在することが、ポスト3.11でわかった。原発立地地域のために、原発を継続というわけじゃないが、0%シナリオのためには、原発稼働に代わる雇用や仕事の確保が必要になる。廃炉に向けた作業や、再エネ(太陽光、地熱、風力など)などあたりが、すぐに思い浮かぶが、、、

(3)既存電力会社の経営リスクと地域経済問題
40年廃炉償却だろうから知っちゃこっちゃない、、というのは簡単だし、電力システム改革とセットでないと電力経営を議論するのは困難である。ただ、電力会社の地方での影響力は絶大だから、地域経済問題あるなあ。
まあ、地域経済の話はほかにも代替手段があるので、除くか。
あと、原発輸出とか、原発新テクノロジー開発とかは無し。

当然、3シナリオ共通の問題としては、使用済み燃料の扱いや廃炉コストの問題、どのシナリオにせよ電力コストは上がるという問題の方が大きいし、エネルギー・環境会議の出しているデータのチェックなどの問題があるが、シナリオ選択ということから、これらは置いておこう。
2030年よりも前倒しで0%実現、というオプションについては、別の機会としよう。まずは、今ある選択肢の中から考えると。


■まとめると、、、
原発依存度0%シナリオは、一部の反原発派の人たちのみが賛成するような過激なものではなく、結構現実的であり、0%にすべきという意志があれば十分可能。

・0%シナリオの推進エンジンは、「原子力の安全確保」が困難な点と事故が起こった場合の補償が事実上無理な点。これは、脱原発を決めたドイツのような倫理面も含めたもの。 

・3シナリオとも、発電コストは今よりも上がり、追加コストや必要投資は発生する。0%シナリオは、相対的にコスト・投資額とも高い見積(規模にして100兆円くら いはかかるもののうち、20兆円程度アップするとの試算)。

・コスト面の高さは、電力発電における再生可能エネルギーの割合を35%と高く設定(CO2削減割合、化石燃料輸入代等を考慮して)することが要因。

となる。

電力発電の再エネ比率は、ドイツでは、2011年で17%、2012年で20%強と近年急速に高まり、2020年度の目標が35%。日本の0%シナリオの目標数値を10年早く、2020年には実現する方針のようだ。
ドイツは、確かに電力の固定買取制度で一部混乱があったものの、脱原発と再エネシフトは十分実行力がある。

まあ、日本も意志があれば、35%の再エネ比率は無理じゃないだろう。

そのコスト高について。「多少高くても原発0に」、という考えもありだが程度問題であり、その目安は上記のとおり。
0%シナリオだけ、飛び抜けてコスト高という訳では無い。 が、やはりコストを下げる努力とセットで、ということだ。

そのコスト低減努力は、低コストな化石燃料として注目されるLNGやシェールガスの輸入というような観点、有望な輸出国のアメリカとの関係では、TPP参加問題なども入ってくるだろうし、前に書いたような日本の電力システム改革 発送電分離をベースとしたスマートグリッドの導入、分散エネルギーの話も関わってくる。

   2012年の電力自由化骨子が固まる、、  これで電気代が安くなるわけじゃない中、自主的な電気利用を少し考える
   http://d.hatena.ne.jp/morissk/20120714

ただ、繰り返しになるが、このコスト面は、3シナリオすべてに共通の話。

少なくとも、やたらとコストが高くなるから0%シナリオ無理でしょ、という空気が生まれて、中間の15%シナリオが採択されるということになれば、あまり論理的じゃないなあ。

で、結局15%シナリオが採用されて、それだってコスト高だから、LNGを安く輸入するためにTPP参加しましょう!  そのために「TPPの国民的議論」しましょう! とかの流れになったら、答えありきの国民的議論のトホホになるリスクがある。

まあ、0%シナリオを採用する立場かな。
スマートグリッドによる省エネ、電力ピークカットや、地熱、風力とかの再エネミックスも加味して。