2012年情報通信白書を読んで  スマート革命に乗っかるためには技術標準化戦略が重要かな

総務省は、情報通信白書を公表した。Webサイトで公開されている。
   http://www.soumu.go.jp/main_content/000168294.pdf

 情報通信白書は、ICT(情報通信関連)の現状や、情報通信政策の動向と、特集・トピックスなどをまとめている。1973年より作成されており、今回は40回目という節目で、気合が入っている。今回の特集テーマは「ICTが導く震災復興・日本再生の道筋」。
震災でのICT活用とともに、日本再生に向けたICTの貢献についての道筋について展望されている。
日本再生とICTの貢献について、簡単にポイントをメモし、日本のICT産業の大きな課題をまとめたい。

成長戦略の要となるICTとスマート革命

白書は、日本再生の基礎となる「成長」とICTの関連について、グローバルな観点で分析している。

■ICT市場・産業が成長をけん引
世界のICT市場は、年平均成長5.4%(日本の2倍以上)で、特にアジア・太平洋地域は7.2%と大きな潜在成長力となっている。これは先進国や、中国、インドなどの新興国だけでなく、発展途上国にも当てはまる。識字率が50〜80%の国・地域でも携帯電話やインターネットの普及が広がっており、ICTは開発途上国の貧困からの脱出ツールとしても期待されるもの。
ICT市場の拡大が、世界の各国で成長の要になっていると。

中心となるICT企業に関して、日本のICT産業は、ソフト・サービス部門は堅調。しかし、ハード系の落ち込み、とりわけテレビや携帯電話などの輸出が大きく落ちたため、ソフト中心の内需主導型に変化しつつある。その中で、大手のエレクトロニクスメーカなど日本のICT企業は、株式時価総額ベースでも売上成長率ベースでも地位が低下している。
確かに、最近のパナソニックソニーNECなどの大リストラのニュースを聞くと、その通りだろう。
一方、世界の通信事業者や、APPLEGoogleサムスンなどICTベンダーは、開発途上国も含む海外市場への進出に成長を見い出しているが、日本のICT企業の海外進出は低調のまま。
グローバルにICT市場が拡大しているが、日本企業は展開力が弱く、APPLEGoogleサムスンなどががんばっていると。

では、ICT市場とは、どのように変化しているか。
ICT市場は、当然、ICTを利用する企業、自治体、医療や教育など社会分野、個人が対象。
各国でICTは経済成長に寄与しており。労働生産性の上昇について、資本設備の情報化要因がプラスの効果を発揮している。一方、日本のの情報化進展度は企業や政府、医療など社会分野で大きな格差があるが、主要国と比較すると90年代前半の米国と同程度と分析。
90年代前半って、インターネット以前の米国と、今の日本は、ICT利用度合いが同程度と。 うむ。

現在、インターネットの社会基盤化等を背景に、ブロードバンド・クラウド・ソーシャルを経て、スマートフォン等の普及によりユビキタスネット環境が完成しつつある。膨大な情報流通・蓄積の活用=ビッグデータと融合し、「スマート革命」と呼べるような新たなICT市場が出現しているという。

スマートフォン・エコノミー
スマートフォンは09年から11年で、世界で2.7倍、アジア太平洋では4.2倍に市場が拡大し、その伸びの相当部分をアップル・中韓台企業(アンドロイド勢)が獲得している。
日本の通信キャリアは遅れながらもスマートフォンへのシフト、異業種連携など付加価値領域へのシフトを推進。日本のICT産業(インターネット関連)も、特にモバイルネットの市場規模が突出して拡大しつつある。
スマートフォン等普及により、電子商取引等のインターネット上のサービス利用が拡大しており、サービス・広告・端末市場への消費拡大による経済波及効果は年間約7.2兆円、雇用創出効果は33.8万人と試算している。

このような新たなスマートフォン・エコノミーが出現したことを背景に、モバイル産業は「エコシステム間」競争が拡大しているという。
プラットフォーム(OS(端末)やアプリストアなどのサービス基盤)を確保し、アプリベンダーを取り込みながらサービス全体の生態系(エコシステム)をいち早く確立し、利用者を誘導する戦略の競争へシフトしていると。

利用者のスマートフォン移行により、モバイルでの検索や音楽配信は、エコシステムを確立したGoogleAPPLEの比重が高まっている(下図)。
Google/AndroidスマホGoogle検索、APPLE iPhoneiTunesが、今までの携帯キャリアの一貫サービスや、キャリアと密接な関係を持っていたレコチョク(着うたですね)などを蹴散らしているのがわかる。


 資料:情報通信白書

彼らは、利用者に対して一貫したサービスを企業の連携をもとにしたエコシステムとして構築し、グローバルに展開している。スマートフォン・エコノミーは、一握りのエコシステム勝者が支配的になる世界のようだ。

スマート革命は入口に立ったばかり

今回の情報通信白書の特集は、スマートフォン・エコノミー分析が、大きなメッセージになっている。各新聞なども、この点を指摘している報道が多い。

スマート革命は、始まったばっかりだ。スマート・フォンは、かなり普及して、上記のようなインパクトが現実になっているが、スマート・グリッド(電力)、スマート・ハウス(家)、スマート・トランスポーテーション(交通)、スマート・シティ(都市)など、今後様々な「スマート・XXX」が実現していくだろう。

これからのスマート・XXXも、スマートフォン・エコノミーのように、利用者にメリットがある一貫したサービスをグローバルなエコシステムとして構築した企業が勝者になることが予想される。
スマート革命の要もICTであることは、まちがいない。情報通信白書でも、ICTは成長のエンジンであり、電力、家、交通、都市などあらゆる領域に活用される万能ツール(GPT(General Purpose Technology))として機能する可能性を指摘している。

スマホ自体もGPTとして一層拡大するだろう。例えば、家の電力・エネルギーデータの入出力インタフェースとしての活用もされるだろうし、車の今後のデータ、例えばブレーキを踏んだ道路箇所のデータがクラウドにupされ、それが集積・解析され「ブレーキを踏む危険個所情報」として運転者に注意を促すプローブサービスなどでもスマホが活躍するかもしれない。

日本については、先に挙げたようにICT分野で停滞しているが、モバイルの利用などは世界の中で依然優位性を持っている。
ICT産業は内需型産業化しつつあるが、グローバル市場を視野に入れた経営戦略が求められており、ハードとソフト、ユーザー企業とICT企業の連携などで国際展開を図ることが白書でも提言している。

Googleだって、実際のAndroid端末をつくっているのは韓国、中国、台湾メーカだし、APPLE iPhoneも台湾メーカとの連携などグローバルな連携でコストリーズナブルを実現し、グローバルに販売しているのが実態だ。
グローバル展開は、市場が停滞・縮小する日本では、そもそも市場が小さい韓国企業と同様に一層重要さが増すだろう。

GoogleAPPLEのようなエコシステムを確立するプラットフォーム事業を日本企業が実現することは、もはや難しいことかもしれない。スマート・グリッドなど電力システム分野は、個々の技術に関して日本は強みを持つ部分が多いものの、システム全体をデザインし、グローバルに企業と連携してエコシステムを実現することはハードルが高いだろう。
日立、東芝三菱電機などは、家電メーカに比べて収益性はまだ良いものの、グローバルにシステム全体のデザインを提示する話は、あまり聞いたことは無い。

全体ではなくそこに組込まれる割と重要なシステムをグローバルに展開していくことが、現実的な姿かと思う。そのときに重要になるのは、グローバルな技術標準の話になる。
ただし、ここも、あまり日本企業は得意としている訳ではない。
   例えば 世界の中心で標準化を叫ぶ中国  http://agora-web.jp/archives/1474419.html

まあ、この辺をがんばらないと、グローバル・エコシステムをつくる欧米、個別コモディティをつくる中国、韓国、台湾の中で、完全に市場ポジションがなくなってしまうことになる。
グローバルな技術標準戦略は、今後の日本の成長戦略のポイントになるかもしれない。

日経新聞も社説で、この辺を重視した論調を張っている。
    技術の標準化で世界の携帯市場に挑め
    http://www.nikkei.com/article/DGXDZO43975590R20C12A7EA1000/
スマホは、もう無理だろうけど。 次のスマートXXXでは、今から国際標準戦略を進めないと。