松本サリン事件間もなく18年 河野義行さんを忘れてはいけない

最近、オウムサリン事件で長年逃亡していた容疑者が相次いで見つかり、逮捕された。そのため、メディア報道でも容疑者の足跡などとともに、当時の事件についての話題があり「この事件を忘れてはいけませんね」とか最後にいつも言う。なんだかな。。。

そういえば、6月27日は松本サリン事件から18年になる。この記事で思い出した。

松本サリン事件間もなく18年 河野義行さんの思い
http://www.shinmai.co.jp/news/20120623/KT120622FTI090008000.html

1994年6月の松本サリン事件から27日で18年になるのを前に、事件の第1通報者で当初容疑者扱いされた河野義行さん(62)=鹿児島市=が信濃毎日新聞社の取材に応じた。ことしは地下鉄サリン事件の殺人容疑などの特別手配犯3人が逮捕され、オウム真理教事件の節目の年となったが、「捜査にとっての節目だが、オウム事件の真実が分かるには時間がかかる」と指摘。住まいは鹿児島に移したが、元教団幹部が代表となって設立された「ひかりの輪」の外部監査委員を通して、引き続き、サリン事件とオウム問題の「真相」を見続けていく決意を示した。

松本サリン事件の被害者である河野義行さんに対するインタビュー記事。その記事のコメントから、、

”松本サリン事件は、松本智津夫死刑囚が口を閉ざしたままで、動機などはいまだはっきりしない。河野さんは戦中、細菌兵器を開発していた旧日本陸軍731部隊の実態が戦後長い年月を経て明らかになってきたことを例に、「真実は時間をかけないと出てこない」と捉える。”

”昨年12月、上祐史浩・元教団幹部が代表となって設立した「ひかりの輪」の外部監査委員の委員長に就任。---「漠然とした不安が公安調査庁によってあおられている部分もある。正確に情報を流すことも必要だ」と引き受けた。
 これまで3回外部監査委員会を開き、--- 事件の再発防止策として提案。「信仰と不法違法行為は全然別のもの。信仰は悪いことではなく、心の中を罰することはできない」と会員たちの行動を見守る。”

”最近、-- 暗い時代に河野さんの生き方を紹介したい―と言われ、著書「今を生きるしあわせ」を出版。「オウム真理教に傾倒した若者たちの不安感と自殺が多い今の日本社会全体の不安感が重なって見える」とし、--- 自身の生き方を伝えた。---「悪い方へ悪い方に考える人は、その方へ引っ張られ、良い方に考えればそうした行動を取ることになる。人間の行動の原点はポジティブに思うこと」と強調する。”


河野さんは、松本サリン事件が起こった当初、警察とマスメディアにより事件の容疑者であると見なされ、もの凄い報道被害を受けた人だ。
このインタビューをしている信濃毎日新聞も、彼を犯人扱いしたメディアの一つだが、当時の大半のマスメディア報道とその後のしらばっくれ方は本当にひどかった。まずこれを忘れてはいけない。
ただ、河野さんは、その信濃毎日新聞のインタビューに対して、上記のように淡々とお答えされている。

ひかりの輪」の外部監査委員の委員長に就任され、再発防止策の提案もされているとのこと。あのオウム事件当時の広報マン上祐氏から依頼を受けたら、数発ぶん殴って断るのが普通の人間だろう。
ただ、河野さんは、その依頼を引き受けられ、会員たちの行動を見守っていらっしゃるようだ。

ご本人はサリン事件でマスメディアから犯人扱いされ、奥様はサリン被害で意識不明の状態になり、その後回復されることもなく2008年に亡くなられた。そのような被害に合われても、河野さんは、「人間の行動の原点はポジティブに思うこと」とおっしゃる。

そして、オウムに破防法を適用せよ、と世間やメディアが騒いだ時も、河野さんは淡々とした口調で反対を表明されていた。

もう何年も前で、番組自体はほとんど覚えていないのだが、確かNHKだったと思う。思想家の鶴見俊輔が、虚空を見つめ、何かに対する怒りの形相で、日本は河野義行と漫画「寄生獣」で救われていると発言した。「個がすくっとたつ」と大きなゼスチャーで言っていたシーンだけ妙にはっきりと覚えている。
そうなのだ、河野さんは、いつも控え目で淡々としているが、すくっと立つ個なのだ。つまり、社会/世間よりも前に個人があり、社会/世間と対立(報道バッシング)してもすくっと立っている。

オウム事件なんて、訳がわからないモンスターがしでかした事件だ。その災難の被害にあわれた方は、大変お気の毒だ。また、今回の逃亡者の発見・逮捕は、再びメディアが報道して一般の認知が高まったためという効果もある。が、こんなくだらない過去の事件なんて忘れてしまっていいと思う。

忘れていけないのは、河野義行さんという個と、彼もかかわっていて現在も続く特定非営利活動法人(NPOリカバリー・サポート・センター(R・S・C)の活動だ。
http://www.rsc.or.jp/about.html

鶴見俊輔氏は亡くなられる前に「思い出袋」という本を出され、河野さんのことも「使わなかった言葉」というエッセイの中で書かれている。僕なんかが、鶴見さんが言いたくて言えなかった河野さんへの言葉なんて、とても言うことはできない。
ただ、河野さんのことは決して忘れることはないと思う。

今を生きる しあわせ

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