刑事罰化という方法論はまずいなあ! 著作権法改正案が衆院で可決

あら、いつのまにか、、、
違法ダウンロード刑事罰化・著作権法改正案が衆院で可決
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1206/15/news057.html

”違法ダウンロードへの刑事罰導入を盛り込んだ著作権法改正案が6月15日、衆議院本会議で与野党の賛成多数で可決された。(途中略)  従来は違法にアップロードされた音楽ファイルなどをダウンロードする行為は違法ながら罰則規定はなかったが、修正案ではこれに対し2年以下の懲役または200万円以下の罰金を科す。”

ちょっとニュースを整理すると

衆議院文部科学委員会で可決された著作権法の改正案の基は、これ
文科省 →http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/1318798.htm

政府案のポイントは
1)“写り込み”(写真などに写り込んだ著作物)の配布権を緩和 (おお、いいね!)
2)国会図書館のデジタル資料の自動公衆配信がやりやすく (一歩前進、いいね!)
3)公文書での著作物の利用が公衆利用の場合やりやすく (一歩前進、いいね!)
4)著作権等の技術的保護手段に係る規定の整備 (うむ、、)

問題は4)で、上の記事にもあるが
・違法なファイルのダウンロードは罰則(2年以下の懲役または200万円以下の罰金)
・DVDリッピングは違法
(「自分が購入したDVDをPCとかにリッピングする行為は私的複製として認められていたのが、今回の改正案では技術的保護手段にCSSが追加され、これを回避してDVDをリッピングすることは私的複製の範囲外として違法行為」(Netから)とのこと。)
の2つ。

違法ダウンロードの罰則に関しては、前回の2010年の改正著作権法では,音楽などの著作物では「違法に配信されているコンテンツと知りつつ私的利用のためにダウンロードした場合は違法」という解釈から、今回は刑事罰に発展したと。
DVDリッピングは今回、私的複製じゃなく違法になったので、違法ダウンロードの流れを汲むとと、次の改正では刑事罰になる?などの憶測を呼んでいると。

今後は、会期末までに潰れる可能性もあるけど、スルッと通るかもしれないし、止めることも可能と言えば可能という状況(将来のことは、当然アバウト)。
この辺は、これが参考になった→「続・ダウンロード犯罪化の経過について」 http://blogos.com/article/41322/

反対意見は説得力はある、だが

今回の法案化に対して(特に問題の2点に関して)、反対を表明している人々の意見としては、、

まずは、津田さん率いるインターネットユーザー協会(MIAU)は、
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1206/14/news021.html
(1)罰則執行の実効性が低い(スピード違反みたいに運の悪いのが捕まるみたいな)
(2)子どもたちが摘発対象になる(違法なんてわからない子供ユーザに対して、いきなり罰則はどうよ)
(3)違法・合法を見分けることが困難(大人ユーザだってネットのコンテンツが違法かどうかよくわからなし、)
(4)捜査権の乱用を招く(まずは、これで別件逮捕して、、)
(5) 今後の法の拡大(今は音楽、動画だけど、今後はゲーム、写真、壁紙もなるかも、、)
あたりを反対理由に挙げており、全くその通りと思う。

日本弁護士連合会も
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120427_2.html <一部簡略化>
1)私的領域における行為に対する刑事罰を規定するには極めて慎重でなければならないところ、私人による個々の違法ダウンロードによる財産的損害は極めて軽微であり、未だ刑事罰を導入するだけの当罰性ある行為であるとは認識されるには至っていないと考えられること、
2)ダウンロードのみに刑事罰を導入することは刑の均衡を失することになる、
3)違法アップロードに対する著作権教育の一層の充実など、他の手段が存在すること、
4)前回の改正著作権法の適用の実態を見極める必要があること、
5)刑事罰の対象とするだけで違法ダウンロードを中止するかについては<効果が>疑問がある
と表明しており、特に1)の個々のユーザの違法ダウンロードによる損害は極めて小さいのに、刑罰化をするのはおかしいというのは、僕が言うのもあれだが正論ですよね。

また、小田嶋隆先輩(ご一緒はしてないけど高校の先輩なので勝手に呼ばせて頂いております)「ハードディスクに眠る違法データと遺書」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20120614/233357/?P=4
では、実際この刑事罰の捜査段階をイメージして、(容疑者の)パソコンが押収される場合、違法ダウンロードのファイルなんかより、PCにある他の大量なプライベートコンテンツが捜査人の手に渡る「プライバシー問題」を危惧する。

「プライバシーというのは致命的なものだ。それを、たかだか違法音源をダウンロードした容疑ぐらいなもので開けられたのでは、まるで間尺が合わない。
 それこそ、拾った10円玉の有無を調べるために、公衆の面前で丸裸にされるようなものではないか。」

いやー、全くです。相変わらず、先輩凄いです。

と、反対表明している人々のご意見は、(僕なんかは)非常に説得的だ。ただ、違法コンテンツのダウンロードが良いか悪いかというレベルと、それを法律(かつ刑事罰化するかどうか)で扱うべきかどうかというレベルを分けた議論が必要と思う。

違法ダウンロード刑事罰化などを進める人々とか

法案を進める人々は、良くわからない面があるけど、、

”「審議会という常識的なやり方では通らないと考えた音楽業界が、自民・公明中心にロビー活動をした」(津田さん)結果、自公は「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」(親告罪)を盛り込んだ案を準備。”
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1206/14/news021.html
というのは、そうなのかもしれないが、よくわからない。この分野は、官庁も、今回の文科省文化庁の他に、経産省総務省警察庁などいろいろある。音楽業界と言ったって、さすがに今CDが売れない理由の多くを違法ダウンロードのせいにする意見ばかりじゃないだろう。(これは頭悪すぎ)
この手の新しめの法案改正とか業界ガイドライン作りとかは、ちんぷんかんぷんの役所が業界団体とかに聞いて作文するケースが多い。通常は、業界メリットと世のトレンドを勘案した業界団体が落としどころの案で実質を仕切って、役所の手柄にするのが慣例だったけど、、、。
案外今回のケースは、頭のゆるい役所と(一部の)業界団体の双方が、とんちんかんになってトホホ、という匂いもする。が、よくわからない。

ただ、やっぱし、違法コンテンツのアップロードとか、そのダウンロードは問題だと僕は思っている。で、アップロードの方だけの厳罰とか監視は限界がある。じゃあ、ダウンロード側の刑罰化の今回はok? いや、それは、ユーザ側のつまらない萎縮とともに、音楽とかの業界側の利益にもならないだろう。(この辺は、小田嶋さんのコラムどおり)

スリーストライク・ルールみたいな運用とか第三者認証機関による裁定とか、、

今の日本は、今回のように業界(コンテンツで収益を上げたい)とユーザ側(やっぱ、タダが良いとか、インターネット・フリー万歳とか)の利益がそう反するケースは、法律でどうにかしましょ、という話になってしまう構造にある。なんか、これがこの問題でもポイントと思う。
これは、官僚が権益を拡大してしゃしゃり出るという面よりも、例えば子供に違法ダウンロードコンテンツを見せたくない親の無意識の集合みたいな社会の側面が大きいかもしれない。(これは大きなテーマなので別に)

じゃあ、今回の問題の解決策はというと、難しい。
ちょっとぶっきらぼうになっちゃうけど、例えばサルコジの時のフランスが導入したスリーストライク・ルール(警告を無視して違法コンテンツを3回ダウンロードしたユーザは、ネット接続を1年断絶するペナルティを課す)みたいな制度を入れるとか、法律にしないで、違法コンテンツや幅広くプライバシーの監視を行う第三者機関の裁定にゆだねる仕組みにするかとか可能性はある。
今の日本でこのようなことが出来るかというと疑問。今、刑罰化を進めるより、将来の日本(さて、、)がこういう仕組みを入れることが良いと思う。