国家戦略会議の長期ビジョン報道をネタに、、  メディア報道にはご用心  

政府の国家戦略会議(議長・野田佳彦首相)の長期ビジョンを検討する有識者会議「フロンティア分科会」(座長・大西隆東大教授)が答申報告書を出した。ネットでは、その報告書自体よりも、オンライン報道、具体的には日経新聞のオンライン版、が大きな話題になった。
政府が情報元でのメディア報道の一つの例としてメモ。


■国家戦略会議の長期ビジョン
長期ビジョン「フロンティア分科会」の報告書(概要)は、これ↓
http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/20120706/shiryo1-2.pdf

国家戦略会議が策定する日本の長期ビジョン(2050年)に関する答申報告書で、野田総理に7月6日に提出されている。日本の長期的な戦略ビジョンとして、叡智、繁栄、幸福、平和の観点から議論し、「共創の国の実現」を旗印に掲げている。

国の長期戦略ビジョンであるから、基本的に重みがある。ただし、有識者の答申で、政府に対しての拘束力はないし、政権与党の民主党の信頼性が低い状況の中、国民の関心も高いとは言えないかもしれない。
中身についても、2050年の長期ビジョンであるから、総花的になるのは、ある意味で致し方ない面があるものの、シャープな像(ビジョン)が浮かんでこない(いろいろな有識者が、いろいろな発言をしたと)。

では、一見重みがあるが、総花で捉えどころがないニュース源を、各メディア(オンライン報道に限る)はどのように報じただろうか?


■最も、全体トーンのバランスに配慮して報じたのはロイターだった。

国家戦略会議分科会が報告書、「共創の国」づくり提言

国家戦略会議のフロンティア分科会は6日、「あらゆる力を発露し、創造的結合で新たな価値を生み出す『共創の国』づくり」と題する報告書をまとめ、野田佳彦首相に提出した。
報告書は、分科会の下に設けた「叡智」、「繁栄」、「幸福」、「平和」の4つのフロンティア部会での議論を元に作成した。2050年の日本のあるべき姿を「共創の国」として描き、社会の多様な主体が潜在力を最大限に引き出し、創造的結合によって新たな価値を創出する国の姿をイメージした。

長期ビジョンのキャッチである「共創の国」を見出しに、報告書の全体像を示している。


時事通信は、2段構えの記事配信だった。
最初の報道は、

「歳出減・成長・増税」必要=50年に「共創の国」目指す−戦略会議分科会が報告書
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2012070600788
(2012/07/06-18:36)

国家戦略会議(議長・野田佳彦首相)の「フロンティア分科会」(座長・大西隆東大大学院教授)は6日、2050年の日本のあるべき姿と、25年までに取り組む重点政策を示した報告書をまとめた。その中で、各地に高付加価値産業が立地し、適性や環境に応じた働き方をしながら新たな価値を生み出す「共創の国」を理想像として提示。そのために財政再建が不可欠として、「歳出削減、経済成長、増税の三つのアプローチ」が必要と強調した。

と、全体バランスがよく、

その後に、
集団的自衛権、行使容認を=首相主導の戦略会議提言
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2012070600799
(2012/07/06-19:17)

国家戦略会議フロンティア分科会は6日、野田佳彦首相に提出した報告書の中で、集団的自衛権の行使を禁じた政府の憲法解釈について、見直しを検討するよう求めた。首相は「現時点で憲法解釈は変えない」としているが、野党時代には行使容認論を唱えていた。与野党保守系議員の間にも賛同する意見が多く、その取り扱いは、次期衆院選後にも予想される政界再編をにらみ、安全保障政策の焦点となりそうだ。

と、集団的自衛権にフォーカスした記事を続けて連発。


■続いて、朝日新聞東京新聞のオンライン版は、、

東京新聞
集団的自衛権容認盛る 政府 戦略会議分科会が提言
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012070790071151.html

中長期的な国家ビジョンを検討している政府の国家戦略会議のフロンティア分科会は六日、集団的自衛権の行使容認を提言する報告書を野田佳彦首相に提出した。政府は、集団的自衛権の行使は憲法で禁じられているとの解釈を堅持してきたが、政府が報告書を基に近くまとめる日本再生戦略に盛り込まれれば、将来的な解釈変更に道を開きかねない。

朝日新聞
集団的自衛権「解釈変更を」 国家戦略会議分科会が提言
http://www.asahi.com/politics/update/0706/TKY201207060738.html

野田政権の国家戦略会議フロンティア分科会(座長・大西隆東大教授)は6日、野田佳彦首相に2050年に向けた日本の将来像を提言する報告書を提出した。憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を認めるよう求めるなど、首相の持論に沿った内容となった。

長期ビジョン報告書の「平和」に関しての具体的なアクションの一つである「集団的自衛権」容認を全面展開。
確かにフロンティア分科会報告書にも、数多くの提言の一つに ”集団的自衛権に関する解釈など旧来の制度慣行の見直し等を通じて、安全保障協力手段の拡充を図るべきである。 ” とある。
両社のこの記事が時事通信の配信を受けてかどうかは、わからない。ただ、購読者の関心にひきつけた記事内容ではある。


■次は、日本農業新聞

政府戦略会議分科会 TPP参加提言 2050年将来像報告 農家反発は必至
http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=15287

政府の国家戦略会議(議長=野田佳彦首相)が設けた「フロンティア分科会」(座長=大西隆東京大学大学院教授)は6日、2050年の日本の将来像と政策の方向性を提言する報告書をまとめた。報告書は国内企業の潜在力を引き出すには「環太平洋連携協定(TPP)への参加を通じて貿易や投資の自由化・円滑化を進める」必要があると結論付けた。農業分野では信用事業といった金融部門をJAから分離することや農地規制の一層の緩和を盛り込んだ。

はい、TPP参加一色です。
同報告書にも、「繁栄」パートの提言で、 ”・・・企業の、もてる潜在力をフルに発揮する企業に変容させるには、国際市場の刺激を加えることである。それには、自由貿易協定(FTA)・経済連携協定EPA)などの積極的締結や環太平洋パートナーシップ(TPP)への参加を通じて貿易や投資の自由化・円滑化を進め、・・・” と、FTAEPAと同列でTPP参加を提言している。
農業関連の皆様の関心事項にフォーカスですね。


■いろいろと話題になった日経新聞オンライン版の記事。
実は、最初の記事はTPPを前に出している。

政府の有識者会議、首相にTPP参加を提言 フロンティア分科会報告
2012/7/6 18:48

政府の国家戦略会議(議長・野田佳彦首相)のもとに置かれた有識者会議の「フロンティア分科会」(座長・大西隆東大教授)は6日夕、野田首相に環太平洋経済連携協定(TPP)参加などを盛り込んだ中長期的な政策の方向性に関する報告書を提出した。

 分科会は2050年のあるべき日本の姿を描き、それに向けた具体的な政策を提言。TPPへの参加を足がかりに「さらに広がりをもつ市場経済ルールを構築」することを目標に、日本がアジア太平洋などでの国際ルール作りの「主導的な役割」を果たすことを求めた。

次に、集団的自衛権にフォーカスした記事が出た後、3番目に出てきたのが、話題になったこれ。

雇用流動化へ「40歳定年を」 政府が長期ビジョン
2012/7/7 2:23

国家戦略会議(議長・野田佳彦首相)の分科会は6日、国の長期ビジョン「フロンティア構想」の報告書をまとめた。国家の衰退を防ぎ、個人や企業が能力を最大限生かして新たな価値を生む国家像を2050年に実現するための政策を提言。「40歳定年」で雇用を流動化するなど労働生産性を高める改革案を盛り込んだ。

いや、、分科会報告書には、「40歳定年」は無いです。正確に言うと、分科会の下の「繁栄」ワーキンググループの報告書には、 ”入社から 20 年目以降であれば、労使が自由に定年年齢を設定できるようにすべきである(最速では 40 歳定年制を認める)。” とあるのだが、その親にあたる分科会報告書にはない。

この記事は、誤報は言い過ぎかもしれないが、長期ビジョンの主要メッセージとしてミスリードであることは確か。

この記事に対して、Twitterでは盛り上がったようだ。

「ベスト&ワースト」サイトでも、ネットでの盛り上がりを書いている。
日経が戦略会議「40歳定年制」の導入を報じる-東スポ並みのミスリードにネット釣られまくり!真実は?
http://www.best-worst.net/news_9cOuK80Du.html

2012年7月7日、日本経済新聞野田首相が議長を務める国家戦略会議は、「40歳定年」を盛り込んだ「フロンティア構想」の報告書をまとめたと報じた。
記事は「雇用流動化へ「40歳定年を」 政府が長期ビジョン」として「40歳定年」だけが独り歩きしているものだ。
このニュースにネットも反応、ツイッターでは「40歳定年」という部分に過剰に反応し「40歳」が浮上した。


■メディア報道には、ご用心
さて、上記のオンライン報道をどう考えたらよいだろうか?
当然、各メディアは、ニュース情報源(この場合は、国の長期ビジョン報告書)を、各社の切り口で読者に伝えるのが基本だ。限られた紙面(オンライン画面?)でもあるし、各読者層に訴える記事を載せたいだろう。特に、総花でパンチが弱い今回のような情報源(報告書)ではなおさらだ。

朝日新聞は集団自衛権の容認、農業新聞はTPP参加とベタに「想定の読者」へ訴求している。サラリーマンのための日経新聞は、読者に関心がある「早期定年=首切り」を持ってきたかったのは容易に想像できる。

特に、日経新聞の取りあげた「提言」は、同報告書に記載はなく、付属資料扱いの提言内容を前面に出しているだけで、トホホ、、というしかない。
日経新聞に関しては、オンライン化し、各記事のアクセス数が「見える化」したため、それを意識した記者が「釣り記事」を書くようになっている、と考える人もいるようだ。
ただ、それはどうかな。
ハッキリ言って、オンライン化前から日経新聞は、このような「前のめり記事」が多いし、、今回以上に明確に誤報の経済記事、かなりあるし。。。
オンラインの記者実名記事でアクセス数を気にした書き方は増えていると思うが、オンラインでも匿名記事については、釣り意識が強くなったとは思わない。

ようは想定読者向けにベタなだけ、と感じる。
今回のニュース情報源とそのマス・メディア報道は、明確に想定読者向けのベタなノリが出たタイプだ。で、ネットニュースや伝搬もベタな祭りが展開されると。

メディア・リテラシー、、云々の前に、まあメディア報道は、彼らが考える「想定読者様」向けにフォーカス(捏造とは言わないが、、)しているので、ご用心! という話でした。